DIPGについて

About DIPG

DIPG疾患について

Diffuse intrinsic pontine gliomaについて

DIPG(diffuse intrinsic pontine glioma)はびまん性内在性橋グリオーマ、脳幹グリオーマなどと呼ばれ、生存期間中央値が1年に満たない非常に困難な病気です。

以下はいままでの文献より記載したものです
日本における最新の情報はDIPG-2023にて集めています

​疫学

  • DIPGは小児脳腫瘍の10-15%、​脳幹部グリオーマの80%を占める。
  • 年間発生率は10万人あたり1.78人。
  • 性差なし。
  • 診断時年齢の中央値は6.5歳。
  • 生存期間中央値(median survival time)は10.8-11か月(7.5-16カ月)。
  • 無増悪生存期間中央値(Median progression free survival (以下、PFS))は、6.0カ月。
  • 1984年から2005年の29研究(973症例)のレビューの報告では、平均生存期間が8-11か月、平均無増悪生存期間が 5-9カ月であることからしても、約40年近くDIPGの治療成績は改善していない。
  • 1年, 2年, 3年, 4年, 5年生存率はそれぞれ、42.3%、9.6%、4.3%、3.2%、2.2%と報告されている。


画像

  • Diffuse(びまん性)は、塊をつくらず浸潤性にという意味であり、対の言葉はfocalが該当する。
  • Intrinsic(内在性)は、実質内(髄内)にあるという意味であり、対となる言葉はexophytic(突出する)が該当する。
  • 脳幹部は上から中脳・橋・延髄で構成され、pontineは橋(pons)に該当する。
  • 脳幹部の組織生検はリスクが高いとされ、多くのDIPGのケースでは腫瘍の発生部位と画像所見、神経兆候を含めた臨床学的所見に基づき行われる。
  • 典型的なMRI所見:1) 病変が橋中心部に内在し、橋横断面の50%以上を占める、2) 境界不鮮明、3) T1低信号域、4) T2高信号域、5) ガドリニウム造影効果は、あっても不整形、6) のう胞形成(19.2%)や橋表面(第四脳室底も含む)への露出を伴わない、7) 脳底動脈の巻き込み(encasement)。
  • ​診断時、頭蓋内播種は1%に、脊髄播種は2%に認める。
  • 髄外に伸展する所見(exophytic)を13.1%、造影効果は33.3%に認めた。

病理・遺伝子

  • DIPGの組織診断のためには、腫瘍の一部を採取する生検が行われる。亡くなった後に組織を剖検(autopsy)によって提供いただくことがある。
  • Iinternational DIPG/DMGレジストリおよびSIOPE DIPGレジストリでは288症例の生検、76症例剖検が登録された。
  • 日本のコホート研究では、約20%のケースに生検が実施された。​
  • 海外からの報告によると、生検が行われた症例において組織診断は、glioblastoma multiforme (GBM; 28%)、anaplastic astrocytoma (26%)、anaplastic oligodendroglioma (3.4%)、diffuse astrocytoma (12.8%)、fibrillary astrocytoma (1.4%)、oligodendroglioma (0.7%)、low-grade astrocytoma (2.8%)、不明 (24.7%)であった。
  • 剖検が行われた症例の検討では、GBM (63.2%), anaplastic astrocytoma (15.8%), diffuse astrocytoma (3.9%), 不明 (17.1%)であった。
  • 組織診断が低悪性度であった場合に予後が良好であるとする報告もある一報で、WHO分類のgradeは予後には影響を与えなかったとする報告もある。
  • H3F3Aの変異の頻度は58.7-65%, HIST1H3Bは21-37.5%, wild-typeは10-16%とされる。
  • H3.3 K27M変異DIPGの特徴として、proneural/Oligodendroglial phenotype、gain of amplification of PDGFRA locus (4q12)、loss of 17p13.1が報告された。
  • H3.1 K27M変異DIPGの特徴は、mesenchymal/astrocytic phenotype、gain of chromosomes 1q, 2、ACVR1変異が報告された。
  • DIPGではヒストン変異の他に, TP53 (62%), ACVR1 (17-33.3%), PDGFRA, MYC, PI3K経路(17%)に変異が認められると報告された。
  • H3.3K27M DIPGの52.9%にTP53変異などのDNA修復遺伝子の変異を認めた。
  • H3.3G34R/VではRTKレベル、H3.1K27MではPI3K/mTORの変化が、H3 WTではMAPKの変化が認められた。
  • NRTK1-NRTK3 fusionは1歳以下の乳児に多く認められた(平均年齢 3.25歳)。
  • 一方で、DIPGのケースではCDKN2A/CDKN2Bの欠失はほとんど認められなかった。
  • また、成人と小児は遺伝子プロファイルが異なる。
  • 例えば、成人でしばしば議論されるIDH1変異は、小児ではわずか6.25%に認められるのみである。


​がん遺伝子パネル検査

  • 2016年以降のWHO分類では、病理診断の中に分子遺伝学的プロファイルが加味されるようになった。
  • Molecular targeted therapy(分子標的治療)を行う上でも、分子診断の重要性は高まっている。
  • 遺伝子パネル検査は、遺伝子の異常を網羅的に検索する方法である。
  • 得られた遺伝子の情報は、治療のターゲットとなる遺伝子情報を得るという点で有用である。
  • また、検出された遺伝子の異常に対する分子標的薬が既に開発されていたり、他の臓器の治療で既に使用されていた場合、遺伝子パネル検査の結果によっては、治療として利用できる可能性がある。
  • ただし、現時点の本邦において、小児に適応となる分子標的薬は非常に限られており、また適応外の分子標的薬を使用するための臨床試験もほとんど行われていない状況であり、遺伝子パネル検査の結果が得られたとしても、生検を受けたリスクに十分見合うだけの利益が得られない医療環境であることは十分に理解しておく必要がある。

予後

  • Short-term survivor (STS)は2年未満の生存の症例、Long-term survivor (LTS) は2年以上生存した症例、very long-term survivor (VLTS)は60カ月以上生存した症例を指す。
  • 年齢:3歳未満、あるいは10歳以上の症例(予後良好因子)(p<0.001)に、LTSが有意に多かった。
  • さらに、10歳以上のDIPGでは年齢が高いほど予後が良い。
  • 3歳は放射線治療を行うかどうかの年齢に相当する。
  • 3歳以下の生存期間は15カ月、3歳以下で放射線治療を行った症例では17カ月の結果であった。
  • LTSには、症状の罹患期間が長い(予後良好因子)(p<0.001)症例が有意に多かった。
  • ​平均の症状の罹患期間は、35日(0-1年)と報告されている。
  • 一方で、脳神経症状を呈する (p=0.008), MRIでリング状の増強効果 (p=0.007), 壊死 (P=0.009), 橋外伸展 (p=0.04)の場合、STSの症例が有意に多かった。(予後不良因子)
  • H3.3 K27M変異の症例(median OS 15カ月)と比較して、HIST1H3B変異の症例では治療(特に放射線治療)に対する反応性が良好であり、予後良好であった(median OS 9.2カ月)。
  • LTSにはHIST1H3B変異を有する傾向があった。(p=0.002)
  • TP53, ACVR1変異は予後には寄与しなかった。